正しいチャイ

インドの食事で印象に残った食べ物といえばビリヤニとバターチキン、そしてチャイだった。チャイはスパイスの入った甘いミルクティーで、インド人はそれを小さなカップに入れて飲む。昼夜問わず、仕事中であっても、友人や同僚と一緒に。私はチャイが好きになって、向こうではほとんど毎日飲んでいた。

どうやったらこの美味しいチャイが日本でも作れるかと、日本に滞在したことのあるインド人に聞いてみた。すると、インドのチャイは水牛のミルクで作られているので、脂肪分が高く甘い。一方、日本のミルクは牛乳だからそのままだと味が薄くなってしまう。だから牛乳を充分に沸騰させて濃くしてから、砂糖を多めに入れるといいと教えてもらった。私はその話をインドで聞いたどの話よりも深く胸に刻んで帰ったと思う。

帰国してから彼の言った通りに作ってみたけれど、それでも最初に作った何杯かはアッサリした味になってしまった。砂糖を黒砂糖に変えたり、スパイスを増やして試行錯誤していると、甘くて香り高い、コクのある味に近づいてきた。私がチャイに入れるスパイスは今のところシナモン、クローブ、カルダモンの3つである。カルダモンは皮も入れる。

作っているとき、まるでカレーだなと思った。スパイスの配合を少しずつ変えながら、好みの味を追求していく。どこで美味しいカレーが食べられるか現地で聞いたとき、一番美味しいのは家庭のカレーだ、その家庭で追求した美味しさがあるから、と答えてもらったこともある。

好きな味を追求するのは何ともいいなと思った。つい自分の生き方に照らし合わせたくなる。好きに生きているつもりでも、正解を求めて立ち止まることがあるから。自分がどうしたいかよりもどうするべきかを考えて足が止まってしまう。正解が必要なときもあるけれど、ない場合も存外多い。そういう時は自分なりに考えて得た結果が納得できるものになる。私はそのことを時々忘れる。

そういうときにチャイはちょうどいいと思う。好きな味を追求する。多少思ったのと違う一杯ができても、また次の一杯に活かせばいい。インドは物事が一筋縄では進まないタフな国だったけれど、チャイのような気軽さも教えてくれたと思う。

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