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だからウイスキーが必要なんだ

私の家には常備菜ならぬ常備酒がある。バランタインという華やかな香りのブレンデットウイスキー、もうひとつはブラックブッシュという果物の香りがするデザートのようなウイスキー。他にも何本か加わることがあるけれど、基本的にこの二つを欠かしたことはない。このような習慣が身についたのは二十代半ばを過ぎた頃だったと思う。

そんなに常備する必要があるの?と知人に聞かれたことがある。そして私はこう答えた。はい、もちろん。

平和に暮らしているつもりでも突然心に打撃を受けることはあって、それは台風のように諦めてじっと時が過ぎるのを待つしかないのだけれどその覚悟を決められないほどパニックになってしまうことがある。怒っていいのか悲しんでいいのかもわからない。一晩経てば落ち着くと頭ではわかっているのだけれど、時間が流れるのを待つだけでも恐ろしいほどの労力を必要とするのである。

先日、お腹の下あたりが痛くなって婦人科に行った。あまりにも痛かったので予約もせずタクシーに飛び乗った。運悪く病院は大混雑で、どれくらい待てばいいか検討もつかない状況だった。仕方がなく再びタクシーに乗り、別の病院へ行った。結果的に異常はなかったのだけれど、診察が想像以上に痛かったことがショックで私は顔を真っ赤にしながら帰宅したのだった。

その時はバランタインを飲んだ。十七年は高いと言われるけれど、六千円もあれば買えるし数ヶ月かけて飲むのでそこまで高い買い物ではない(と私は思っている)。グラスに注いでストレートで飲み、ああ、とため息をつきながら飲み干し、また注いで飲むのだった。一時間後には今日はもう仕方ない、諦めよう、と思える程度になっていた。ウイスキーにはそういう力がある。心が平和なときに飲むこともあるけれど、そういうときもただのお酒ではなく「いざという時頼りになる存在」として敬いながら飲む。

私だけではなく、恋人と別れて大泣きしている友人にも飲ませたことがある。誰の人生も一寸先は闇なのだから、備えがあることに越したことはない。

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