表参道の国連大学裏に、プロモ・アルテというラテンアメリカの美術を扱うギャラリーがある。こじんまりとした白い壁のギャラリーで、私は時々ここを訪れる。
初めて来たときは、キューバの現代芸術家、ネルソン・ドミンゲスの作品が展示されていた。そこに描かれていたのは人間で、けれど未知の生き物にも見えた。神様を祀る祭壇やお供え物の絵には体温が下がってしまうような厳粛さがあって、しばらくの間ぽかんと眺めた。そして、またここに来たいと思うようになった。
それまで私は美術について知識や関心を持っているわけではなかった。幼い頃に絵を見に行った記憶もないし、学校の美術の授業は退屈だった。実技はともかく、教科書に載った絵と作家を覚えるなんて・・・。初めて一つの作品に没頭できたのは、高校生の時にオランダでフェルメールを見たときだ。さすがに「真珠の耳飾りの少女」の存在は知っていたけれど、実際にそれを前にしたときは、やはりしばらくの間ぽかんとしていた。作品にまつわるエピソードや画法、時代背景を自分から調べたのも、あの作品が初めてだった。
作品を見るときに知識と気合を持つこと、あるいは楽しむことを求められているような気がして、美術全般を近寄りがたいもののように思っていたのかもしれない。それらをスルーして何も考えずに見ていたほうが、私の場合は素直に作品と向き合えるとわかって、ようやく親しみを感じるようになった。一昨年の誕生日には、生まれて初めて絵を買った。
それでもやっぱり、人混みや仰々しさが鼻につく展示にはどっと疲れてしまう。有名な作品でものんびりと見ることができたらいいのにとよく思う。
先日のプロモ・アルテには、フリオ・セサル・ペニャという作家の作品が展示されていた。人間のように着飾り、談笑している骸骨たちが描かれていて、ひと目で好きになった。スタッフのひとから、彼はキューバの芸術家だと教えてもらった。つい先月キューバ音楽に熱狂したこともあって、最近はキューバの歴史と文化に惹かれ始めている。これが私なりの美術との付き合い方だと、今は思っている。