ある理想的な一日について

朝、目が覚めたらぼんやりとする。慌てて出掛けたりはしない。ハーブティーを淹れながら、見た夢について考える。砂漠の夜、美しい星空の下で編み物をしながら人ならざるものと話す夢だ。この夢は何を暗示しているのだろうと考えながらふわふわのオムレツを作る。完全に目が覚めたら、歩いて十五分ほどの場所にある職場へ行く。

職場では舘ひろしと浅野温子が上司だ(刑事になりたいわけではない)。昼休みは友人を誘って寿司屋へ行き、上等な握り寿司を食べる。あるいは、広い公園で手作りのサンドイッチを食べる。サンドイッチにはサーモンとブラックオリーブ、紙のように薄いスライスオニオンが入っている。本屋に寄り道して仕事場へ戻り、夕方には帰宅。

オーブンでチキンの香草焼きを作りながら本を読んでいると、恋人がシュークリームとサバランをどっさり買ってやってくる。彼は慣れた手つきでアボカドのサラダを作る。アボカドの熟れ具合を見極めるのが上手なのだ。私はそんな恋人に茶々を入れる。私を宥めるために、彼はイチジクを切って食べさせてくれる。

その後、友人達が冷えた白ワインを持ってやってくる。お互いの近況を話しながら夕食をとる。音楽をかけるとみんなでてんでバラバラに踊り始める。即興で歌を作って笑い合う。

お風呂に入った後、自室で書き物をしていると、今年の夏はギリシャへ行こうと提案される。いいけれど、ギリシャ語は一言もわからないと言うと、恋人はギリシャ語の歌を歌ってくれる。どうして歌えるの?と聞くと、映画で見たんだ、とはにかみながら応える。

アクティブな気分の夜なら、友人と球場まで足を伸ばして野球を見る。ビールを飲み、焼きそばと焼き鳥を食べて、お祭り気分で応援する。ヤクルトは先制し、途中追いつかれながらも8回あたりで追加点をとって手堅く勝利する。のそのそと歩いてくる真中監督に大きく手を振る。「良い試合だったね」と言い合い、余韻に浸りながら帰宅する。

こうして理想的な生活を書き出してみると、食べ物ばかり出てくるのがいかにも自分らしいような気がする。けれど実際、美味しいものを食べるのは幸福なことだ。私の理想は理にかなっていて、分相応で、決して実現不可能では無いと思う。舘ひろしとヤクルトは、ちょっと高望みかもしれないけれど。

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