日が落ちるのが早くなると、悲しくなる。もうこんなに暗いのかと思う。そのくせ私はこの季節の夜が好きだ。勝手な話だけれど。
不眠症に悩まされていた頃は夜が怖かった。眠れないことに耐えられなかったし、周りの人間が当たり前のように眠っている中、自分はそれをできないのだ思うことも辛かった。不眠が解消された今(正確には不眠がやってきても適切な距離感を持って接することができるようになった今)、私は夜に親しみさえ感じる。
夜の情緒を描いたという理由だけで手にとった作品は多い。カズオ・イシグロの「夜想曲集」、タブッキの「インド夜想曲」。普段は雑誌を買わないのに、最新号のスタジオ・ボイスは夜が特集だったので買ってしまった。「フローズン・タイム」という映画では、不眠症の男が眠れない時間を有効活用するために夜のスーパーで働いた。ショパンの夜想曲。夜を美しく捉えすぎているのではないかと思うくらいだ。けれどそれくらい、夜を舞台にした物語は魅力がある。心の底に隠れた孤独や表情を垣間見せ合うような気持ちで、作品の中に生きる人々とつながることができる。
私はもう立派な大人なので、夜に散歩に出ることも、バーに入ることもできる。けれど自分に合った夜の過ごし方はある程度わかってきていて、心休まる夜の過ごし方といえば気の合う友人とお酒を飲むか、音楽を聴きながら本を読むくらいだ。それが私にとってささやかな、けれど贅沢な過ごし方だ。暗いことさえ考えなければ夜は優しい。
最近の理想は(理想はカップケーキのように膨らむ)、夜用の部屋を作ることだ。どっしりとした椅子とたくさんの本、ウイスキーが山のように・・・とまではいかなくても、質の良い銘柄が数本置いてある、そんな夜用の部屋があったら優雅だろうなと思う。暖炉があって、冷蔵庫の中には手作りのレーズン・バターが・・・夜の夢はいつも楽しい。