私は小説を書くとき、その人物の顔や体格や声を想像する。どんな服を着るか、腕時計やアクセサリーはどういったものを身に着けるか、化粧品、ヒゲの剃り方、歩き方・・・。それを実際に描写するかどうかは別として、自由に思うままに想像を膨らませていく。次第にその人物がひとりでに動き出す。私はそれをこつこつと書いて小説にする。
人物を想像するときは基本的にそれまで出会ってきた人や通りすがりの人の記憶がもとになる。けれど最近は、古雑誌から想像を膨らませていくことも増えてきた。
以前男性を主人公にした小説を書こうとしたとき、自分が男性のファッションについてほとんど知識を持っていないことに気がついた。どういった服があって、どんなふうに着ると格好がつくのか?男性の服には女性の知られざる世界があるのではないか(実際にはあまり無さそうだけれど・・・)。そこで古雑誌屋に行って男性向けのファッション誌を漁るようになった。雑誌にちりばめられた理想の男性像、女性にモテたいという素直な欲求、格好良くなりたいという願望はどれも新鮮だった。もちろん私が女だからだろうけれど、単純に読み物として面白かった。
最新の雑誌を本屋で手に取ったりもしたけれど、それらは「今現在の世の中に対して発信しているもの」なので自分はその情報を受信しなければと身構えてしまう。似たような理由で女性向けの雑誌もほとんど買わない。服も化粧も頑張らなくてはならないような気がしてくるのだ。古雑誌であればそういった心配はなく、過去のものとして心置きなく見ていられる。
私が一番気に入ったのはHUgEという講談社が出版している雑誌だった。ただ物を買わせようとするのではなく、独特のテーマを毎回持っていた。多彩で魅力的な男性像がそこにはあり、想像を膨らませる上で大変助けられた。雑誌なんて場所をとるから買いたくないと思っていたけれど、当分やめられそうにない。