ウィーンに行ってきた。ウィーンといえば音楽の都だから、行くならオペラやコンサートの予定に合わせようと当初は思っていた。残念ながらそんなことを考える余裕はなくなり、とにかく生活から離れたいという思いだけを抱えて飛行機に乗った。だからフライトは何時間なのか、現地でどこに行くのかもろくに考えない無計画な旅となった。まあ、旅なんてそんなものなのかもしれない。
幸いなことに現地に友人が住んでいたので案内してもらい、名所を巡った。シェーンブルン、ヴェルヴェデーレ、楽友協会のコンサート・・・。ウィーンは街がコンパクトなので周りやすい。
一番気に入ったのはドナウ川のクルージングだった。ドナウ運河を出て水門で水位を調節し、ドナウ川に出る。ただひたすら川を進むだけでおまけに小雨まで降ったのに、デッキにいる時間の方が長かった。どこまでも広がる空と、国境などおかまいなしに流れる川は見ていて飽きなかった。陸に降りた頃はすっかり元気になって心が子供のように柔らかくなっていた。
この子供のような心、というのが私が旅する時にもっとも期待しているものだと思う。目に飛び込んでくる新しい景色に驚いたり感動したりしていると、日々の瑣末なストレスを忘れることができるし、自分が本当に大切だと思っていることをふつふつと思い出す。今回の旅でもそれまで悩んでいた人間関係や今後の生き方のことを、そこまで重く捉えなくてもいいように感じることができた。疲れていると往々にして視野が狭くなる。私には好きな人たちがいて、やりたいことがあるじゃないか。それ以外のものとは距離を置けばいいのだと心から思えた。本当は普段からそんなふうに子供のように素直に感じて、考えることができたらいいのだけれど。
帰りはポーランド乗り換えだったので2時間だけ市街地に出た。ポーランド語は一言もわからないし、バスの運転手は英語が通じない。Google Mapを頼りに辿り着いた聖十字架教会でショパンの心臓が納められた柱を拝んで、ぎりぎりの時間で空港に戻ってきた。旅にはこういうスリルもおまけでついてくると良い。