カタツムリについて

とある編集者の方がこんなことを言っていた。「もの書きのプロは、書けない、というのはありえないんです。基本的にどんなテーマでも書く。そういうものです」。ふうん、なるほどなぁと私は思った。当たり前のことだけれど、あらためて言われるとずしんと響く言葉である。どんなテーマでも・・・つまりそれは例えばカタツムリについても切々と書かなければならないわけである。そう思ったら居ても立ってもいられなくなったので、カタツムリについて書く。

カタツムリといえば、あの童謡を思い出す人も多いのではないだろうか。でんでんむしむしかたつむり、おまえの頭はどこにある、つのだせ、やりだせ、頭だせ。何度も歌ったせいか子供の頃はカタツムリに親近感があって、つのをつついて驚かせたりした。

そんな時代が過ぎた頃、私はアメリカに移り、害虫としての一面を知ることになる。私の父は園芸が趣味で、庭にはたくさんの花を植えていた。ところがある日、花の根がちぎられてほとんど枯れてしまったのである。最初は近所に生息しているリスが疑われたけれど、明け方花壇を見に行った父は大量のカタツムリを見て仰天した。そう、カタツムリの群団は花の根をばりばりと食べていたのである。

それ以来、広い口の瓶に少量のビールを注いで土に埋め、匂いに誘われたカタツムリがそこに落ちる・・・という画期的な罠を設置することによって、我が家の園芸生活は守られた。カタツムリが可哀想と思う人もいるかもしれないけれど、これは実際に自分で草花を育ててみれば害虫の恐ろしさが身にしみてわかるはずだ。私も以前、育てていたバジルや大葉をヨトウムシにむしゃむしゃと食べられ、たった3cmほどの小さな生き物が一晩でこんなにも食べるのかと驚かされた。そして自分が精魂込めて育てた植物が食べられると、やはり腹が立つのである。

カタツムリの姿をあらためて拝見するかと外に出てみたものの、なかなか見当たらない。思い返してみればここ2、3年見かけていない気がする。環境の変化に弱いのと、乾燥する都会では見かけないと聞くけれど、どこかにひっそりといるのではないか。というわけで、カタツムリを見かけた方は是非その場所を教えてほしい。いじめたりしませんから。

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