追悼

けんけんさんは、The R.O.X & Gently Weeps Orchestraのリードギターであり、the milkholeのリーダーでもある。どちらのバンドも私の恋人がドラムを叩いているので見に行くようになったのだけれど、恋人がいるからという理由だけでライブハウスに通っていたわけではない。どちらも毎回パフォーマンスを楽しみにしていた。特にthe milkholeはけんけんさんが作曲してるから、圧倒的にずば抜けてた。けんけんさんはthe milkholeを「中島みゆきとニルヴァーナを足して2で割った感じ」と表現したことがあったけれど、私が説明するなら「中島みゆきが20代の頃にイギリスに留学してバンド組んでたらきっとこんな感じ」だ。どっちも言いたいことはあまり変わらないかもしれない。でも結局のところ、どのバンドにも似ていないと思う。本当に良い意味で。

とにかく曲の展開が意表をついていて、旋律と歌詞にこだわりがあって、それを引き立てるためにすべての音が設計されていた。良い女が街はずれで歌うような、孤独で綺麗な音楽だった。4人編成のバンドなのにオーケストラを聴いているみたいだとよく思ったし、大胆なことをやってのけながらも、誰も触れることの許されない繊細さが常にあった。今思えばけんけんさんという人間があの音楽に表現されていた。私はthe milkholeが結成してからこの2年間、ライブを一度も見逃したことがない。それくらい好きになった。

行くたびにライブの様子を撮影していたから、年末は中古のビデオカメラでも買おうかなと考えていた。スマホだと音が拾いきれないから。いっぱい映像をとって、レコーディングもしてもらって、the milkholeの音楽をたくさんの人に聴いてもらいたいとずっと思っていた。好きなバンドのライブをコンスタントに見れるなんて自分は幸せ者だとも思っていた。

けんけんさんに「the milkholeは曲がものすごくいい」と言うと、「そうでしょ?」とニコニコしながら喜んでくれた。けんけんさんは一見、北関東のあらくれ者だけど、笑うとかわいいし、面倒見がいいし、優しかった。私が仕事で体調を崩したので、会社を辞めて放浪すると言ったら「そういう時間も大切だと思うよ」と労ってくれた。けんけんさんも体調が悪くて大変だったのに。The R.O.Xがギャンゲットでライブをやるとき、賑やかな場所が苦手な私はよく隅っこでお酒を飲んでいたのだけれど、それに付き合ってくれるのも大抵けんけんさんだった。勝手に兄のように思っていた。来年のライブまで会えないのは寂しいから、飲みに誘おうかなんて齋藤さんと話していた。

けんけんさんは昔、ブランキーの「悪いひとたち」がラジオから流れてきたときにひっくり返ったという話をしてくれた。私も自分のペンネームを浅井にするくらいベンジーが好きだ。でも好きなだけで名前をつけたんだじゃない。ベンジーみたいに素直な心で感じて創作しなければ意味がないと思ってつけた。けんけんさんも創作に対して揺るぎない信念があった。だからけんけんさんがギターを持つ姿が二度と見られないんだと思うと、信じられないくらい辛い。

今も馬鹿みたいに辛い。でも、なんとか残りの人生を歩んでいく。

今まで仲良くしてくれてありがとう。素晴らしい音楽を届けてくれてありがとう。ゆっくり休んでください。私が死んだら、あの世でけんけんさんの曲を聴かせてほしい。隣に座って話をたくさん聞かせてほしい。そして生まれ変わっても、けんけんさんと友達になりたい。

2019年12月21日 浅井真理子

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