「真理子さん、オランダには男女混浴のサウナっていうのがあるんですけどね、これがもう気持ちよくってね……」
友人とヨーロッパを旅行しているときに聞かされた話である。私はもう一度聞き返さなければならなかった。えっ、男女混浴ってことは、水着を着てということ? それがなんと、すっぽんぽんだという。そんなまさか。だって外国の人は裸を見せ合うのが嫌だから日本の銭湯に馴染めないと聞いたことがあったのに……。どうやら、裸でいるのは問題ないのだけれど、裸で同じ浴槽にいるのは恥ずかしいという感覚らしい。そ、そういうものなのか。
そしてまさかの展開で、私はその話を聞いた数日後にベルリンの男女混浴サウナに行くことになった。ホステルのシャワーが味気ないので、サウナで体を温めることにしたのである(ちなみに同行者は全員女性)。私はサウナ自体には賛成でも、男女混浴に対する心の準備はまったくできていなかった。どんなものなのか想像がつかないのである。妙な雰囲気になったりしないのだろうか。しかし百聞は一見にしかずである。勇んでサウナに行ってみると受付は大行列で、30分は待ってくれと言われてしまった。大人気ではないか。
ようやく入れることになり、服を脱いでバスローブで武装、いざサウナスペースに足を踏み入れると目の前にはシャワーを浴びる男性がいた。言わずもがな、全裸である。けれど見渡してみれば、全員全裸なのだ。恥ずかしがる様子も、怪しい雰囲気もない。みんな心からサウナを楽しんでいるようだった。私もだんだんこの異様な空間が楽しくなってきて、バスローブやタオルで体を隠すことはせず、思う存分温まった。
説明しておくと、その日行ったサウナには全部で3つのサウナ部屋(45℃のスチームサウナ、80℃と90℃のサウナ)、水風呂とぬるいお湯のプールがあり、リラクシングスペースには寝椅子とバーがある。プールだけが水着着用を許されており、リラクシングスペースとバーはバスタオルやバスローブを着用できる。けれどサウナは全裸であることがルールである。お客さんの男女比はちゃんと見ていないけれど五分五分くらいだろうか。若い人も多かった。冬のベルリンは寒いから、サウナは良いリフレッシュの場として愛されているのだろう。ごはんも食べられるし、温まるのに疲れたら横になればいい。まさに楽園だった。
もし日本に混浴サウナがあったら行くだろうか。私は知り合いと出くわすことを怖がってしまう気がする。こういうのは行きずりだからこそできるのだ。けれどあっという間に恥ずかしさが消えてしまったあのときのことを思うと、これも慣れの問題なのかもしれない。