時計の話をしよう。
広告に使われているものや売られているもののほとんどが、10時10分を指していることを私は不思議に思っていた。その不思議は積み重なり、つい先日、調べて真相を知ることができた。
理由は至極シンプルだった。時計のブランドロゴは基本的に12時の真下に描かれている。まずそれが見えるようにしなければならない。そのため、昔は8時20分を指した時計もあったらしい。それに「上向きにすることで縁起良く見せよう」という狙いが加わり、10時10分という時刻が定着したのだという。しかし、こうも全ての時計が10時10分を指していると、それはそれで違和感を感じなくもない(ちなみにセイコーはバランスの美しさのため、広告に出す時計の時刻は全て10時8分42秒と決めている)。
私はそれまで、「デパートが開店して、客が売り場にやってくるタイミングとしての10時10分」なのだろうかと思っていた。時代としてはかなり最近の話になるが、このようにして「その時の時刻」を想定し、タイミングを合わせる人を知っていたのだ。かのスティーブ・ジョブズである。
彼は新製品のプレゼンテーションを行う際、何日もかけてその練習を行った。自分のスピーチに何分かかるか把握し、「iPhoneのイメージ画像を見せる時刻は何時頃になるか」ということを理解していたのである。スピーチが9時00分から始まり、自分の話す時間が40分と認識していたら、41分の時刻を指したiPhoneの写真を見せるわけである。そうするとそのプレゼンテーションを見ていた人たちは、何の違和感もなく「9時41分」と時刻を指したiPhoneを目にすることができる。そんなところまで計算していたのかと、当時は随分驚かされた。
これは更に調べてわかったことなのだが、昨今のAppleの製品画像は上記のことがきっかけで9時41分を指すようになっているという。確かにデジタルならば、10時10分にこだわる理由は無い。例外として、つい先日発売されたiWatchは10時9分30秒を指していた(推測の域を出ていないが、この時刻にもAppleの意図が隠されていると主張する人もいる)。
どうせなら9時41分を貫いて時計の歴史も塗り替えてしまえば良かったのにと、無責任なファンとしては思ってしまうところである。