寒くて何もする気が起きない日、私はホットワインを作る。それは最早習慣と化している。乾燥する日は道に水を撒き、寒い日はホットワインを作る、というように。ホットワイン程、冬の侘びしさを慰めてくれる飲み物は無い。
作り方は人それぞれあるだろうが、私のはとてもシンプルである。小鍋に赤ワイン、柑橘系の果物をひとつ、シナモンを投げ入れて温めるだけである。果物は、安くて手に入りやすいみかんを使うことが多い。本当は皮も使いたいけれど、農薬が気になるときは剥いてしまい、実を手で軽く潰す。
湯気がほのかに立ち上がってきたら頃合いで、耐熱のグラスに注いで飲む。赤ワインはコンビニで売っているような安物で充分だけれど、少し渋めのものが好ましいと思う。シナモンスティックが見当たらない場合は、びん詰のシナモンパウダーを出汁用のパックに入れる。他にもクローブなどのスパイスを入れるレシピの方が断然多いだろうけれど、なにせ私は頻繁に飲むので、香りを出しすぎず、素朴に作る。
赤ワインにオレンジジュースを入れてレンジで温めるという、もっと手軽な作り方もある。しかし私は断然「小鍋で温める」という手順を勧める。その過程にこそ、ホットワインの真髄があると言っても良いのだ。果物の味とシナモンの香りが行き渡っていることを、味見しながら確かめる。温めすぎると風味が飛んでしまうし、ぬるくても不味い。この見極めさえ省かなければ、誰でも美味しいホットワインを作ることができる。
わざわざ材料を買いに出かけて作るような飲み物ではないので、安めのワイン、果物、シナモンは常備薬のように用意しておく。そしていざ、家から出る気すら起きないような寒い日がやってきたときは、ささっとホットワインを作り、ゆっくりと口に流し込むのである。
何をするにしても、まず心を落ち着けなければならない。今日はとても寒い日だった。胸の痛むニュースも入ってきた。だから私は、今年何度目かわからないホットワインを作った。今もそれを飲みながら、これを書いている。