テレビがうちに来た

テレビが苦手というと、お高くとまっているように思われるらしいのだけれど、私はテレビが苦手だ。

第一に、うるさい。リアクションが無意味に大きいし、広告が多い。そしてどこか白々しい。数年前にうつを患ったことがきっかけで、ほとんど観なくなった。実際うつ病になると、テレビの騒々しさがストレスになる人は多いらしい。治ったあともずるずると、テレビを持たずに生きてきた。

大体、私の三大娯楽と言えば読書、ヨガ、料理である。時々映画を観たり、友人とお酒を飲んだりする。最近は洋書にも興味を持ち始めたし、踊りを習おうかとも考えている。そしてまとまった時間を見繕っては、小説を書く。それだけで時間は矢のように過ぎていく。テレビの入る余地は無い。

しかし先日、家にテレビが来た。共同生活をしている住民がテレビを持ってきて、居間に置くようになったのである。

最初はどんな様子になるかしらと思っていたのだけれど、テレビの音でストレスを感じることは無かった。それどころか、日々忙しく勤めている同居人が夜帰ってきて、のんびりとテレビを眺めているのを見かけると微笑ましく感じた。誰かがテレビを観て笑っている。それだけで家というのは居心地の良さを増すようである。

それでもやっぱり、私は腰を落ち着けてテレビを観たりはしない。けれど居間に入ったとき画面をちらりと観て「ははあ、こんな動物がいるのか」とか「この俳優って主役をやるようになったの」と思ったりする。少し前、「世の中にはこんなかっこいい男の人がいるのね」とついうっかり口に出して同居人に笑われた。確か綾野剛さんという俳優だったと思う。テレビを観なくなると、芸能人の名前もわからなくなる。

昔は「電子辞書を持ってしまうと、紙の辞書のページをめくったときに目に入ってくるような単語が無くなる」ということを言う人がいた。私にとってのテレビはここでいう「紙の辞書」に当たるような気がする。

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